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みずがめ

水甕

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,082 字 · 26 页

青空文庫

また、杯を満たしたまま放っておこうとすれば、それは彼女の機械的な動作を中絶させることで、すっかり調子が狂いそうでした。そう思うのも、彼がもう酔っ払ってきた故だったかも知れません。

酔ったのかなあと、彼はふと、夢からさめたように考えました。そして立上りかけましたが、片膝だけで、また坐りこみ、杯を取りました。それを口へは持ってゆかず、じっと眺めました。光りがちらちら、月の光りのように映っていました。それへ、女は間違えて銚子を差付けました。

「よせよ、もうよせよ。」

どなりつけて、仁木は杯を一口に飲み干し、卓子の上にかたりと置きました。それへ、女は銚子を差付けました。

「もうよせよ。」

女は笑顔をしたようでしたが、それより早く、仁木は彼女の手から銚子を払い落しました。銚子は卓上に砕け散り、酒が四方へはねました。女はきっと身構えたようでした。そのとたんに、仁木の平手は彼女の横面へ飛びました。彼女は声も立てずに、そこへ突っ伏しました。

そのことに、彼自ら茫然としていました。次の瞬間、彼の右手首は、中本の手で押えられていました。彼は口許にかすかに冷笑を浮べながら、静に立ち上りかけました。