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みずごもり

水籠

伊藤 左千夫

「ホトヽギス 第十一卷第二號」1907(明治40)年11月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,600 字 · 10 页

青空文庫

「コリャ思ったより深い、随分ひどいなア」

「半四郎さん、どうも御苦労さま、とんだ御厄介でございます。そこらあぶのうございますからお気をつけなすって……」

「やア今日は君が来てくれたか、どうです随分深いでしょう。上げ縁は浮いてしまったし、ゆか板もところどころ抜けてるから、君うっかり歩くと落ちるよ、なかなかあぶないぜ」

「コリャ剣呑だ、なにもう大丈夫、表のガラス一枚破りましたよ、車へ載せて来ましたからつい梶棒をガラス戸へ突き当ててしまったんです」

「なアにようございますよ、ガラスの一枚ばかりあなた……」

「随分御困難ですなア」

「いやありがとう、まアこんな始末さ。それでもおかげさまで飢えと寒さとの憂いがないだけ、まず結構な方です。君、人間もこれだけ装飾をはがれるとよほど奇怪なものですぞ。この上に寒さに迫られ飢えに追われたら全く動物以下じゃな」

「そうですなア向島が一番ひどいそうです。綾瀬川の土手がきれたというんですからたまりませんや。今夜はまた少し増して来ましょう。明朝の引き潮にゃいよいよ水もほんとに引き始めるでしょう」

半四郎は飯櫃と重箱とほかに水道の水を大きな牛乳鑵二本に入れたのを次ぎ次ぎと運んでくれる。