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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
信子も亮作が小学教師で終らぬことを信じた上で結婚した。中等教員はおろか、その上の試験にもパスして、教授、学者になるかも知れないと思っていた。仲人の口もあったが、書籍の山にうずもれた彼の書斎の風姿に接したときに、なんとなくそう信じたのである。
三十前後までは、彼への世間の信用も大きかった。学識深遠、小学教師などで終るべき凡庸の徒ではない、というのである。人々は彼を仰ぎ見た。
四十前後には、完全にその逆であった。同じ人間が、同じ土地で、目立って変った生活はひとつもしていないのに、こんなに世評がひッくりかえるということは、信じられないようであった。しかし世間は彼を遇するに、ひところはそのように甘く、そして後には冷めたかった。
彼に憐れみを寄せる人もなかった。軽蔑と嘲罵が全部であった。
学務委員はそれが父兄全体の声でもあると云って、彼が全然見込みのない受験のために、当面の教育をないがしろにしていることを校長につめよるのである。
校長は彼のために弁護しなかった。
「まったく、あの人物には困りましたよ。よそへ廻したくても、どこの校長も引きとってくれません。まだしも代用教員を使う方がマシだと言いましてね」