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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
まだウチへ行ってないのです。おやすみ」
野口は笑顔を残して、静かに立去る。
日曜の夜の習慣であった。信子と克子は、これが見たくないので、早々にフトンをひッかぶって、ねてしもうのである。
そのくせ信子も克子も野口のくれた物を存分に食う。さかんにくれた人と貰った人の悪口をわめきながら食うのである。
「そんなに厭な人から貰った物なら、お前たち、食うな」
亮作は怒りにぶるぶるふるえるが、二人の女はとりあわない。そして益々悪口を叫びつづける。
「なんですね。あの男は。この子の生れたころは、あなたの同僚ですよ。ひところは失敗つづきで、乞食のような様子をして、ウチへ借金に来たことだってありましたよ。それになんですか。いくらか出世したと思って、たかが戦争成金のくせに、威張りかえって」
「威張っておらんじゃないか」
「威張ってますよ。昔はキミボク、イケぞんざいに話し合っていたくせに、いくらか出世したかと思って、あなた、私。おお、イヤだ。以前なら、いま伊東の帰りだよ、といったところを、いま伊東の別荘からの帰り路なんですよ。なんてイヤらしい」
「バカな。へりくだっているんじゃないか」