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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
あのフロシキだって、タオルの代りにはなるでしょう」
そのフロシキには、かなりの現金がつつまれているらしい。いくらぐらいかしら、と野口の家族は噂していた。野口は言葉をつづけて、亮作をからかった。
「あなたはウチの鉈でエンピツをけずっていらっしゃいましたね。鉈は叩き割る道具ですが、どうでした、うまく削れましたか。ウチの者に仰有ればナイフぐらいお貸ししますよ。しかしナイフぐらいお買いになってはどうですか。まだ売ってる店を見かけましたよ」
「いえ、買いません。買いたいと思いません。お金が惜しいからではありません。私は貴重な体験を生かしているのです。私は考古学のまとまった資料や大切な文献をみんな焼いてしまいましたが、文献以上の資料を見出しているのです。それは私の今の生活を原始時代のものとみて、その体験を資料にし、実験しているのです。今までの学者は石器時代の遺跡を地下から発掘しましたが、私は生きている生活を発掘しているつもりなのです。八紘一宇の精神にも一致します。遺跡の発掘は米英的な科学にすぎませんが、私のは、学問の真髄、日本精神にのっとった唯一最後のものなんです。