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みずとりてい
水鳥亭
「別冊文藝春秋 第一五号」1950(昭和25)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,705 字 · 62 页
もう、これ以上は申しません。あなたの運を御自由にお選び下さい。五千円なら売ります。おイヤでしたら、やめましょう」
亮作は肌身放さぬ包みの中に七千余円もっていた。これは彼が主として野口に使われてからの五ヵ年間にためたものだ。万事が配給の時世となって、いくらも生活費がかからず、信子と克子は大伯母からの仕送りで別個にくらすようにもなったから急速にたくわえが出来たのである。
彼は孤独の行く末を何より怖れていた。怖れの根本は、無一物というところから来ているのである。自分に才のないことも骨身に徹している。そして、年もすでに五十である。そして、無一物である。
彼はこの別荘をどうしても買いたい気持になっていた。家も田畑も、源泉までも所有しているとは、なんてすばらしいことだろう。このドンヅマリの家だけは戦禍をまぬがれるかも知れないし本当にまぬがれるような気もするのである。
たとえ家はやられても、この田畑さえあれば、安穏な老後が送れる。
彼が金をもたなければ、どうしてもこの別荘を買いたいために、泥棒したいと思ったかも知れない。あいにく彼は買えるだけの金を持っていたので、金をだすのがイヤであった。