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ひょうが
氷河
黒島 伝治
1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页
負傷者は、傷をかばいながら、頭を擡げて窓口へ顔を集めた。五六台の橇が院庭へ近づいてきた。橇は、逆に馬をうしろへ引きずって丘を辷り落ちそうに見えた。馭者台からおりた馭者はしきりに馬の尻を鞭でひっぱたいていた。
「イイシへ行った中隊がやられたんだ。ウェヘヘッヘ。」
伍長は嬉しげに頓狂に笑った。
「何がおかしいんだ! 気狂い!」
やかましく騒ぐ音が廊下にして、もう血のしみ通った三角巾で思い/\にやられた箇所を不細工に引っくゝった者が這入ってきた。どの顔も蒼く憔悴していた。
脚や内臓をやられて歩けない者は、あとから担架で運ばれてきた。
「あら、君もやられたんか。」大西は、意外げに、皮肉に笑った。「わざと、ちょっぴり怪我をしたんじゃないか?」
「…………。」
腕を頸に吊らくった相手は腹立たしげに顔をしかめた。
「なか/\内地へ帰りとうて仕様がなかったんだからな。」
それにも相手は取り合わなかった。そして釦をはずした軍衣を、傷が痛くてぬげないから看護卒にぬがして呉れるように云った。痛がって、やっと服を取ると、血で糊づけになっている襦袢が現れた。それは、蒼白に、がく/\顎を慄わしている栗本だった。