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ひょうが

氷河

黒島 伝治

1928(昭和3)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,824 字 · 42 页

青空文庫

それから伝令が走らされたのだった。……

大西も、栗本も、腰に弾丸がはまった初田も週番上等兵につれられておりてきた。

「こんなに、さわったらころびそうな連中を引っぱり出して鉄砲をかつがせるって法があるかい!」その群の一人が云った。

「数が足らんのだよ。」

「足らんだって、病人を使う法があるか!」

彼等の胸は、強暴な思想と感情でいっぱいだった。

彼等は、橇から引っかえした日に、一人一人、軍医の診断を受けた。それが最後の試験だった。それによって、内地へ帰れるか、再び銃をかついで雪の中へ行かなければならないか、いずれかに決定されるのだった。

病気を癒すことにかけては薮医者でも、上官の云ったことは最善を尽くして実行する、上には逆わない、そういう者の方が昇級は早い。軍医は、その軍隊のコツを十分呑みこんでいた。兵タイを内地へ帰えすと約束して、まだその舌の端が乾かないうちに、反対に戦場へ追いやるのは随分ツライ話だ。が、彼は、そのツライ話を実行しなければならないと考えた。

負傷者は、今、内地へ帰れなかったら、この次、いつ内地へ帰れるか、さきは暗闇だった。――鉄橋からの墜落、雪の中の歩哨、爆弾戦、忌々しいメリケン兵などが彼等の前に立ちふさがっているばかりだった。