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えがわらんこ
江川蘭子
江戸川 乱歩
「新青年」博文館、1930(昭和5)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,151 字 · 23 页
ラン子は上着をちぎり捨てて、部屋の真中へ飛んで行った。そして、いきなりジョセフィン・ベイカアの踊りを踊り初めた。だが、踊っているのは、黒ん坊ではない。寧ろ気高い程も美しい、桃色の日本娘だ。その不調和が豚を気違いにしてしまった。彼は血のたれる唇を、だらしなく開いて、三十年以前の流行歌を怒鳴り始めた。
曲馬団の親方は、わざとラン子を置いてけぼりにしてしまったので、彼女は当分パトロン老人との共同生活を続ける外はなかった。
段々、この老人が非常な資産家の、恐らくは千万長者の隠居であること、隠居とは云え、老人自身も莫大な財産を所有していること、彼の息子の当主は大阪の有名な売薬製造業者であることなどが分って来た。老人は着物でも装身具でも、ラン子の望むがままに買い与えた。ラン子は、飛び切り新しい仕立ての着物をひらめかせて、神戸の元町通りを散歩するのが好きになった。
間もなく、元町通りの茶店で、アダムス四郎という二十三歳の英和混血児と知合いになった。四郎の高い透き通る鼻と、奥底の知れない青い眼と、鼻の上のそばかすとがラン子の気に入った。
四郎はラン子の住んでいる、パトロン老人の別宅へも遊びに来る様になった。