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えがわらんこ

江川蘭子

江戸川 乱歩

「新青年」博文館、1930(昭和5)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,151 字 · 23 页

青空文庫

のみならず、寧ろこの小怪物を不機嫌にさえした。子守唄の代りに、びっくりする様な騒音が、愛撫の代りに打擲が有効であった。騒音では、台所で皿と皿とのぶつかる音、殊にそれが床に落ちて破れる音が、ラン子を楽しませた。ある時、アパートの前で、自動車のタイアが破れて、鉄砲みたいな音を立てたが、それを耳にするといきなり笑い出した蘭子の御機嫌というものはなかった。

又ある時、アパートの裏口の側を這い廻っていて、三段ばかりの石段を転がり落ちたことがある。無論火のついた様に泣き出すものと、驚いてかけ寄ったお駒さんは、蘭子の顔を見てあっけにとられてしまった。

彼女は石段の下に仰向きに転がったまま、生え始めた可愛い前歯を出して、睫毛の長い美しい目をうっとりさせて、真から嬉し相に笑っていたのだ。

その笑顔のあどけなさ。

「母ちゃんはね、お前をたべてしまいたいよ」

お駒婆さんは、たまらなくなって、いきなり蘭子を抱き上げて、頬ずりをしないではいられなかった程だ。

だが、この異常な性質を別にすれば、智慧もたくましく、身体もすこやかに、彼女はグングン生長して行った。殊にその美貌は父母の美しい部分丈けを遺伝して、年と共に愈々魅力を増し、彼女を一目見た者は、「マア可愛い」