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けっとうじょう

決闘場

岡本 かの子

「ペン」1936(昭和11)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,298 字 · 23 页

青空文庫

ジョーンを物の数にもしなかった。

それが、そのジョーンが、今こんな暴力でワルトンを撲った。気が遠くなる程叩き付けた。ワルトンは意外にジョーンを大敵だと知って怒張した。決死の闘争が二人を捕らえた。

ジョーンとワルトン、今は何を置いても相手を一つでも余計に撲りたかった。突きたかった。彼等はだんだん闘争そのものになって行った。彼等の意識には今はアイリスも無かった。決闘場も無かった、晩春も、午後の陽射しも、何もかも無かった。唯々衝突が、岩に当る怒濤のように繰返された。彼等は息が切れた。声をも立てられなかったのに、其処には劇しい騒音があった。

アイリスは、地を蹴る乱雑な響に腹底をいたぶられた。二人の交互に鼻血を啜る音を聞いた。猛獣の荒々しい呼吸づかいさえ感じて総毛立った。これらの雑音の間に交って、骨と骨との衝突する音は如何にも荒廃の不気味さをアイリスの心に響かせた。

彼女はどうしていいか全く判らなくなった。

留める事は思い及ばなかった。此のやけの命がけの闘いは彼女を惨酷に引き裂くようで恐ろしかった。彼女の体は男達の周りを右往左往した。彼女は男達の血の闘争に彼女自身も加わったような気がした。