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かわあかり

河明り

岡本 かの子

「中央公論」1939(昭和14)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页

青空文庫

その男は始終船に乗って海上に勤め、そして娘は店で老主人の代りに、手別けして働いている。娘は簡潔に家の事情をここまで話した。そして、その船貿易を主張する店のもののことに就いて、なおこう云って私の意見を訊いた。

「その男の水の上の好きなことと申しましたら、まるで海亀か獺のような男でございます。陸へ上って一日もするともう頭が痛くなると申すのでございます。あなたさまは物をお書きになって、いろいろお調べでございましょうが、そんな性質の人間もあるのでございましょうか」

と云ったが、すぐ気を変えて、「まあ、お仕事始めのお邪魔をいたしまして、またいずれお暇のとき、ゆっくりお話を承りとうございますわ」と、火鉢の火の灰を払って炭をつぎ、鉄瓶へ水を注し足してから、爽やかな足取りで出て行った。

爛漫と咲き溢れている花の華麗。

竹を割った中身があまりに洞すぎる寂しさ。

こんな二つの矛盾を、一人の娘が備えていることが、私の気になって来たし、この娘の快活の中に心がかりであるらしいその店員との関係も、考えられた。

私は何だか来てしまって見ると、期待したほどの慾も起らない河面の景色を、それでも好奇心で障子を開けてみた。