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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
その竜宮を、或は錫蘭島だといい、いや、架空の表現なのだとか、いろいろ議論がありますものの、大体北方の哲学の胚種が、後世文化の発達した、これ等南の海洋の気を受けた土地に出て来て、伸々と芽を吹き、再生産されたことは推測されましょう」
木下はなお南洋の海に就いて語り続ける。
遠い水は瑠璃色にのして、表面はにこ毛が密生しているように白っぽくさえ見える。近くに寄せる浪のうねりは琅の練りもののように、悠揚と伸び上って来ては、そこで青葉の丘のようなポーズをしばらく取り、容易には崩れない。浪間と浪の陰に当るところは、金沙を混ぜた緑礬液のように、毒と思えるほど濃く凝って、しかもきらきら陽光を漉き込んでいる。片帆の力を借りながら、テンポの正規的な汽鑵の音を響かせて、木下の乗る三千噸の船はこの何とも知れない広大な一鉢の水の上を、無窮に浮き進んで行く。舳の斜の行手に浪から立ち騰って、ホースの雨のように、飛魚の群が虹のような色彩に閃めいて、繰り返し繰り返し海へ注ぎ落ちる。垣のように水平線をぐるりと取巻いて、立ち騰ってはいつか潰える雲の峯の、左手に出た形と同じものが、右手に現れたと思うと、元のものはすでに形を変えている。