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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
積荷の塩魚のにおいの間から、ふとすると、寒天や小豆粉のかすかなにおいがする。陸地に近づくと大きな蝶が二つ海の上を渡って来る。
「この絢爛な退屈を何十度となく繰り返しているうち、僕はいつの間にか、娘のことを考えれば、何となく微笑が泛べられるように悠揚とした気になって来ました。」娘のすることなすことを想像すると、いたいけな気がして、ただ、ほろりとする感じに浸れるだけに彼はなって来た。で、今まで嫌やだと感じる理由になっていた、女嫌いの原因になるものは、どうなったかというと、彼の胸の片隅の方に押し片付けられて、たいして邪魔にもならなくなって来た。いつの間にか人をこうした心状に導くのが南の海の徳性だろうか。
男はここまで語って眉頭を衝き上げ、ちょっと剽軽な表情を泛べて、私の顔を見た。
「そこへあなたのご周旋だったので、ありがたくお骨折りを受け容れた次第です」
ここで私は更に男に訊ねて見なければ承知出来なかった。
「そういうことなら、なぜ娘さんにその気持ちの径路を早く行って聞かさないで、こんな処で私一人に今更打ち明けるのですか」
「ははあ。」といって男は瞑目していたが、やがて尤もという様子でいった。