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かわあかり
河明り
岡本 かの子
「中央公論」1939(昭和14)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,244 字 · 98 页
さざ波が星を呼び出すように、海一面に角立っている。
私はこの真摯な青年の私に対する信頼に対して、もはや充分了解が出来ても、何か一言詰らないではいられない、やや皮肉らしい気持ちで云った。
「あの娘さんも随分私にご自分の荷をかずけなさいましたが、あなたも最後の捨荷を私にかずけなさいますのね」
そう云いながら、私は少し声を立てて笑った。それは必ずしも不平でないことを示した。
男はちょっとどぎまぎして、私の顔を見たが、必ずしも私が不平ではない様子を見て取って、自分も笑いながら、
「やあ、御迷惑をかけたもんですなあ……でも、そういう役目も文学をやる方の天職じゃないのですか。何でもそういう人間の悩みを原料として、いつかそれを見事に再生産なさることが……」
「さあ、どうですか。……それもかなりあなたの虫の好い解釈じゃありませんか……」私はまだこんな皮肉めいたことを云い乍らも、もはや完全にこの若者に好感を感じて言葉の末を笑い声に寛がした。
「やあ、どうも済みませんですなあ……は、は、はは」男も充分に私の心意を感じていた。
「この広々とした海を見ていると、人間同志そのくらいな精神の負担の融通はつきそうに思えますわ」