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かわはぜ

河沙魚

林 芙美子

「人間」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,653 字 · 24 页

青空文庫

、腫れものにさわるような気持ちだった。千穂子は今は一日が長くて、住み辛かった。姑の膳をつくって奥へ持って行くと、姑のまつは薄目を明けたまま眠っていた。枕もとへ膳を置き、「おかあさん、ご飯だよ」と呼んでみたけれど、すやすや眠っている。千穂子はかえってほっとして、そこへ膳を置き、炉端へ戻って来た。

「よく眠ってる……」

「うん、そうか、気分がいいんだろ……」

「おじいちゃん、そこに酒ついてますよ」

炉の隅の煉瓦の上に、酒のはいった小さい土瓶が置いてある。与平は、汚れたコップを取って波々と濁酒をついで飲んだ。千穂子は油菜のおひたしと、汁を大椀に盛ってやりながら、さっき、水の中へはいっていた与平のこころもちを考えていた。死ぬ気持ちであんな事をしていたのではないかと思えた。そんな風に考えて来ると涙が溢れて来るのである。ざあと雨のような風の音がしている。もう、この風で、最後の桜の花も散ってしまうであろう。千穂子は猫にも汁飯を少しよそって、あがりっぱなに丼を置いてやった。

「伊藤とか云う人の話はまだきまらねえのか……」

小さい声で、与平がたずねた。千穂子は不意だったので、吃驚したように与平の顔を見た。