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かわはぜ

河沙魚

林 芙美子

「人間」1947(昭和22)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,653 字 · 24 页

青空文庫

いままでも、小柄で痩せていた千穂子ではあったけれども、子供を産んでしまうと、なおさら小さくなったようで、与平は始めて、薄暗い燈火の下で千穂子の方を見た。伊藤と云うのは、千葉の者で、千穂子の子供を貰ってもいいと云ってくれる人であったが、産婆の話によると、もう少し、器量のいい赤ん坊を貰いたいと云う事で、話が沙汰やみのようになっているのであった。千穂子の赤ん坊は月足らずで生れたせいか、小さい上にまるで、猿のような顔をしていて、赤黒い肌の色が、普通の赤ん坊とは違っていた。赤ん坊は生れるとすぐ蟹糞をするのだけれど、まるでその蟹糞色のようなどす黒い肌であった。――藁の上から、親切な貰い手があれば一番いいのである。産み月近くには、二人ばかり貰い手の口もあったのだけれど、いざ生れて、猿っこのような赤ん坊を見せられると、二人の貰い手は、もっと器量のいい子供をと云うことになったのであろう。千穂子は日がたつにつれ気持ちが焦って来た。このまま誰も貰い手がないとなると、与平との相談も、もう一度しなおさなくてはならないのだ。与平も、赤ん坊の片づく話を待っていたのだけれども、千穂子の顔色で、うまく話が乗ってゆかなかったと云うことをさとっていた。