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ふぐくわぬひじょうしき
河豚食わぬ非常識
北大路 魯山人
「星岡」1935(昭和10)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,310 字 · 5 页
ふぐのうまさというものは実際絶対的のものだ。ふぐの代用になる美食はわたしの知るかぎりこの世の中にはない。
わたしはひとがなんと思おうとかまわぬ気で告白するが、今日わたしほど美食に体験を持っている人間は世間にほとんどない。朝から晩まで、何十年来片時も欠かさず美食の実験に浸っている。まったくわたしのようなものはまずないと信じられる。この点では僭越ながら世上広しといえども、自分は美食家として唯一とはいわないが稀有の存在であると信じている。もとよりそれが善事とも悪事とも思わないこと、もちろんだ。
偉いこととも思わねば、馬鹿な所業だとも思わぬ。ただそういうふうに生まれ合わしてきただけだと思っているまでではあるが。とにかく、誰がなんといっても美食没頭の体験においては人後に落ちない自信を有している。従って、あらゆる美食を尽くしていると告白するに躊躇しない。この日夜飽くなき美食何十年の実際生活を基本として至公至平に判断するとき、ふぐは絶味も絶味、他の何物にも処を異にすると断言してはばからないのである。
由来毒をもって鳴るこのふぐなるものも料理に法を得ればなんら危惧なくして、口福を満たされることは前申すとおりだ。