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野村 胡堂
「小説の泉」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,176 字 · 28 页
――」
佐々村村一は懺悔台の前に跪ずいた、熱心な罪深い信者のような、恐ろしい努力で此話を続けて居る様子です。
――六回目は昨年の秋でした、いつものような、真っ暗な室の中で、寝台に押し並んで掛けた阿修羅は、――近頃ではもう斯う呼んで居りました、どうせ本当の名を知らないのですから――いつもと違って、ひどく打ち萎れて居るので、そのわけを訊くと、最初は胡麻化して教えてくれませんでしたが、到頭我慢がし切れなくなったか、シクシクと泣き乍ら、二度ともう此処へは来られない、あなたと逢うのも今晩限りになるかも知れないというのです。
「そんな馬鹿なことが――」
というと、
「夫の四番目の妾が、忠義立てをして私の跡を蹤け、此隠れ家を突き留めてしまったのです、夫はアラビアン・ナイトの大魔王よりも、残酷で皮肉です。私はどんな目に逢わされることか」
阿修羅はそう言って、私の首に抱きつくと、声を放って泣くのです。涙は二人の頬を伝わって、私の口へもしたたかに流れ込みました。
「そんな事、少しも恐れることは無い、此処から直ぐ、私と一緒に世界の果までも逃げよう」
私は本当にそんな心持でした。