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野村 胡堂
「小説の泉」1949(昭和24)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,176 字 · 28 页
阿修羅王
そこで私は、茶谷会長の課題に答えて、女の美しさの極致は、その声にあると申上げ度いのです。日本人の中にはドスをきかせるとか、ジンギを切るとか、声の汚いのを得意にする人達さえあり、日本では婦人でさえもあまり『声』の美しさに関心を持つ人はありませんが、私は声の美しさこそは、男も女も身についた最大の特長で、特に女に取っては何よりの大きい魅力であると信ずるものであります。皺枯れ声で恋を語るなどは、考えただけでも身ぶるいものではありませんか。ところが私は、何んの幸せか、想像もしなかった女の美しい声を、この耳で実際に聴き、生れて始めて恍惚たるエクスタシーを味ったのです。それを申上げることにいたしましょう」
阿修羅王
「お願い、後ろを振り向かずに、そのままジッとしていらしって、私の申上げることをお聴き下さいまし」
五月の薫風のような爽やかな、そのくせ言いようもなく可愛らしい声が、私の耳もとに囁やくのです。
場所は帝劇の二階の奥の観覧席で、映画は「歎きの王妃」であったと思いました。終景近くなって、筋は絞られ、感興は亢まり、まさにワクワクし乍ら画面に見入って居ると、いきなり私の耳の傍で、若い美しい声が、緊迫した調子で、