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はたのてい

波多野邸

豊島 与志雄

「展望」1946(昭和21)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,194 字 · 45 页

青空文庫

」

一同は笑った。愉快になった。そして井野老人の蟹のため、盛んにビールを飲んだ。井野老人はますます楽しそうに酔っていった。

洋介はいつもの通り、あまり口を利かず、ぼんやり微笑んでいた。ところが、突然、痛いほど私の腕を掴んで、囁くように言った。

「井野さんの蟹のマッチは、あれはこじつけだ。真意は、日本の社会を諷刺してるのかも知れない。皆がそれぞれつまらないものにしがみついていて、それこそ手か足か何か大事なものを自分でもぎ落さなければならなくなるまで、それを放そうとしない。そうじゃないか。僕の周囲もだいたいそうだ。僕は帰国してきてからへんに息苦しかった。理由はそこにある。もっと自由にならなくちゃいけない。僕はうすうすそのことに気付いて、それとなく闘ってきたが、これからは公然と闘ってやる。」

彼はひどく腹を立ててるようだった。私の腕を掴んでる力をますます強めた。その顔はなにか皮が一杯むけたかのように鮮かな血の気がさし、眼はぎらぎら光っていた。

「表の店の家賃は現金で払って貰う約束だ。ここの利益も、僕に歩合ではいってくる。生活の不安もなさそうだ。」

彼はいきなりそんなことを私に打ち明けて、私の顔をじっと眺めた。