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つがるのむしのす
津軽の虫の巣
宮本 百合子
「日米時報」1919(大正8)年6月21日・28日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,198 字 · 10 页
しかし、歳を経るに従って、法令は益々出て益々奇怪至極なものとなって来た。
たとい公方様のお達しとはいえ、僅か自分の怪俄で死んだ小猫一匹のために、歴とした武家一族が、八丈嶋へ遠嶋とは、余りといえば存外ではないか。
また近くはつい先頃、江戸の小鼓では押しも押されもせぬ一代の名人観世九郎が、鬱晴らしについ何心なく羽田の沖に釣糸を垂れたばかりに、不愍にも船頭もろとも欠所遠嶋仰せつけられたという、驚くべき例もある。
知足院の隆光とやらいう怪僧がまんまと大御台様を始め大奥ぐるみけれんに掛けて非道の御布令を出させたのも、結句は隆光の計画である。見い、あの悪くさげな僧姿を、高麗あたりからの牒者(まわしもの)がこの大和国を乱しに来おったのではあるまいか、等という流言は至る処に喧(かま)びすしかった。中でも例年献上品の重きをなしてた鷹を止めたのみならず、猟師を殺生の業として禁ぜられたことなどは豊作の乏しい藩にとってはこの上も無い痛手である。
たとい密々に方便はあろうとも、畜生に代えて人の命を軽んずる禁令は上下の憤懣(ふんまん)を起さずにはおかない。
絢爛(けんらん)たる当代の文明に対しては、余りに暗澹(あんたん)たる怨嗟(えんさ)の声は、遠い僻鄙(へきひ)の地にも絶えなかったのである。