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りゅうせんスパイ

流線間諜

海野 十三

「つはもの」1934(昭和9)年~1935(昭和10)年頃

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,982 字 · 70 页

青空文庫

筆者はこの辺で長い前置きを停めて、まず白昼の銀座街を振り出しのR事件第一景について筆をすすめてゆこうと思う。

それは爽やかな秋晴れの日のことだった。詳しくいえば十月一日の午後三時ごろのことだったが、青年探偵帆村荘六は銀座の鋪道の上を、靴音も軽く歩いていた。丁度彼は永い間かかった或る仕事を片づけた直後で、半ば興奮し、そして半ば退屈を覚えて、いつも愛用の細身の洋杖をふりふり散歩をしていたのだった。

鋪道の上で、彼にすれ交う人たちは、いずれも若く、そして美しかった。男よりも、どっちかというと若い女性が多かった。溌溂たる令嬢、麗しい若奥様、四、五人づれで喋ってゆく女学生、どこかで逢ったことのある女給、急ぎ足のダンサーなどと、どっちを向いても薔薇の花園に踏みこんでいるような気がした。しかしよもやその日花園の中で彼女等のうちの一人が死んでゆくところを目撃しようとは考えていなかった。

彼は銀座の四つ角を青信号の間に渡って、京橋の方に向って歩いているところだった。もう半丁もゆけば喫茶ギボンがあるので、そこによって温い紅茶をのもうと思った。そして眼をあげてチラリとその方角を眺めた。