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りゅうせんスパイ

流線間諜

海野 十三

「つはもの」1934(昭和9)年~1935(昭和10)年頃

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 34,982 字 · 70 页

青空文庫

かれはポケットを探ってそこに皺くちゃになった一本の莨を発見した。それに火をつけて吸いはじめたが、それは筆紙に尽されぬほど美味かった。凍りついていた元気が俄かに融けて全身をまわりだした感じだ。彼は煙をプカプカと矢鱈にふかし続けていたが、そのうちに椅子から飛びあがると、ハタと膝を打った。

「そうだ。僕は莫迦だった。なぜそれにもっと早く気がつかなかったのだろう!」

そう独言をいった彼は、襯衣のポケットに手を入れて何物かを探し始めた。

「あった、あった」

彼がやっと取出したものは五、六本の燐寸の棒だった。その中から三本を抜きとって、あとは元通りにポケットの底にしまった。それから彼は館員から茶碗を一つ借りて、それに少量の水をたらし、その水の中へ三本の燐寸の頭を漬けた。

暫くすると、茶碗の水は薄すらと黄色に変った。そこで燐寸の頭を取出し、そこに残った淡黄色の水をいと興深げに眺めていたが、こんどは何思ったものかその水を指先につけて、卓子の上に伸べてあった漫画の水兵の紙面へポタポタとたらし、それをすらすらと拡げていった。かくすること両三度、――彼は息づまる思いでその紙面を穴の明くほどみつめていた。