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りゅうこうさっかのし

流行作家の死

野村 胡堂

「新青年」1932(昭和7)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,876 字 · 28 页

青空文庫

まア、時々呼んで可愛がってやって下さい。当人は中世紀のナイトのような気で居るんですから、発奮の足しになりますよ」

「あら、本当なの早坂さん、嬉しいワねえ。私は世間から阿婆摺のように思われて居るけれど、これでも小娘のように純潔よ、お友達になりましょうね、ネ、ネ」

美しい立花秀子は、手袋を脱った滑らかな両手を、足の勇の七つ下りのズボンの上にかけて、斯う揺ぶり加減に、照れ切って居る勇の顔を、覗き上げました。

「弱ったなア」

「弱ることなんか無いワ。貴方はもう私の愛人よ誰が何んと言っても」

「驚いたなア」

足の勇は全く面喰って了いました。天下に聞えた美人で、才女で、しかも大年増の妖艶な女から、こんな調子で話しかけられようとは予期もしなかったのです。

「じゃ、僕は失敬する、仲人は宵のうちさ、頼むぜ勇」

何方の意味にも採れるような言葉を残して、千種十次郎はサッと立ち上りました。

「待ってくれ兄貴、約束が違う」

「馬鹿だなお前は、約束は立花さんとするが宜い、左様なら」

千種十次郎はそう言って午後の街の陽の中へ飛出しました。後に残った二人、足の勇と立花秀子は、隅っこの椅子に二羽の小鳥のように寄り添って、照れ臭く顔を見合せて居りました。