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あさまふんかこう

浅間噴火口

豊島 与志雄

「文芸春秋」1938(昭和13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,938 字 · 24 页

青空文庫

その晩から、二人とも姿を見せなくなったのである。印刷の仕事がこんでいたので、江原が小僧を別所の下宿に走らせると、別所が帰宅してないことが分った。時間をはかってみると、李は一度春日荘に戻って、またすぐ出て行ったものらしい。なお、その前日、李と別所とは長々と議論を闘わしたのだった。別所が書きかけてる小説を百枚ばかり、李に見せたものらしく、それについての議論らしかった。李が手酷しくやっつけているのが、他の者にも大体分った。二人は議論を外にまで持って出た。

その二日のことが江原には腑に落ちなかったのである。殊に別所についてそうだった。別所は近頃、神経衰弱の気味だといって仕事も粗漏だったし、元気がなく蒼ざめ、眼に輝きがなく、へんに陰鬱に沈みこんでいた。その上あの「パルプ」同人の断髪の女は、どうも別所と恋愛関係があったらしく、それを李が揶揄するようなこともあったらしい。ところがあの二日とも、別所は妙に苛立ち、李はそれを酷しくやっつけてるのだった。

「李君も少し変ってますからね。」と江原は云った。

江原の家に、田舎の親戚から預ってる女学生がいた。李が英語がよく出来るので、時々、学校の英語の宿題など教わることがあった。