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うきよえのかんしょう
浮世絵の鑑賞
永井 荷風
「中央公論 第二十九年第一號」1914(大正3)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,949 字 · 14 页
二
三
二
浮世絵は余をして実に渾然たる夢想の世界に遊ばしむ。浮世絵は外人の賞するが如く啻に美術としての価値のみに留まらず、余に対しては実に宗教の如き精神的慰藉を感ぜしむるなり。特殊なるこの美術は圧迫せられたる江戸平民の手によりて発生し絶えず政府の迫害を蒙りつつしかも能くその発達を遂げたりき。当時政府の保護を得たる狩野家即ち日本十八世紀のアカデミイ画派の作品は決してこの時代の美術的光栄を後世に伝ふるものとはならざりき。しかしてそは全く遠島に流され手錠の刑を受けたる卑しむべき町絵師の功績たらずや。浮世絵は隠然として政府の迫害に屈服せざりし平民の意気を示しその凱歌を奏するものならずや。官営芸術の虚妄なるに対抗し、真正自由なる芸術の勝利を立証したるものならずや。宮武外骨氏の『筆禍史』は委さにその事跡を考証叙述して余すなし。余また茲に多くいふの要あるを見ず。
三
浮世絵はその木板摺の紙質と顔料との結果によりて得たる特殊の色調と、その極めて狭少なる規模とによりて、寔に顕著なる特徴を有する美術たり。浮世絵は概して奉書または西之内に印刷せられ、その色彩は皆褪めたる如く淡くして光沢なし、試みにこれを活気ある油画の色と比較せば、一ツは赫々たる烈日の光を望むが如く、一ツは暗澹たる行燈の火影を見るの思ひあり。