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うきよえのかんしょう

浮世絵の鑑賞

永井 荷風

「中央公論 第二十九年第一號」1914(大正3)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,949 字 · 14 页

青空文庫

四

余は何が故か近来主張を有する強き西洋の芸術に対しては、宛ら山嶽を望むが如く唯茫然としてこれを仰ぎ見るの傾きあるに反し、一度その眼を転じて、個性に乏しく単調にして疲労せる江戸の文学美術に対すれば、忽ち精神的並に肉体的に麻痺の慰安を感ぜざるを得ず。されば余の浮世絵に関する鑑賞といひ研究といふが如き、元より厳密なる審美の学理に因るものならず。もし問ふものあらば余は唯特別なる事情の下に、特別なる一種の芸術を喜ぶと答へんのみ。いはんや泰西人の浮世絵に関する審美的工芸的研究は既に遠く十年以前全く細微に渉りて完了せられたるにおいてをや。

四

余は既に幾度か木にて造り紙にて張りたる日本伝来の家屋に住し春風秋雨四季の気候に対する郷土的感覚の如何を叙述したり。かくの如く脆弱にして清楚なる家屋とかくの如く湿気に満ち変化に富める気候の中に棲息すれば、かつて広大堅固なる西洋の居室に直立濶歩したりし時とは、百般の事自ら嗜好を異にするはけだし当然の事たるべし。余にしてもしマロック皮の大椅子に横りて図書室に食後の葉巻を吹かすの富を有せしめば、自らピアノと油絵と大理石の彫刻を欲すべし。