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うみのかなた

海のかなた

小川 未明

「週刊朝日」1924(大正13)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,028 字 · 14 页

青空文庫

そして、暮れてゆく海の景色をながめるのでありました。

「ああ、なんといういい景色だ。」と、おじいさんは海の方を見ながら、ため息をもらしました。おじいさんは、この海の暮れ方の景色を見ることが好きでした。

つばめはしきりに、空を飛んで鳴いています。船の影は、黒く、ちょうど木の葉を浮かべたように、濃く青い波間に見えたり、隠れたりします。そして、真っ赤に、入り日の名残の地平線を染めていますのが、しだいしだいに、波に洗われるように、うすれていったのでありました。

おじいさんは、ほとんど、毎日のようにここにきて、同じ石の上に腰を下ろしました。そして、沖の暮れ方の景色に見とれていましたが、そのうちに、バイオリンを鳴らすのでした。

おじいさんの弾くバイオリンの音は、泣くように悲しい音をたてるかと思うと、また笑うようにいきいきとした気持ちにさせるのでした。その音色は、さびしい城跡に立っている木々の長い眠りをばさましました。また、古い木に巣を造っている小鳥をばびっくりさせました。そして、しまいには、うす青い、黄昏の空にはかなく消えて、また低く岸を打つ波の音にさらわれて、暗い奈落へと沈んでゆくのでした。