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あざらしとう
海豹島
久生 十蘭
「大陸」1939(昭和14)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,311 字 · 48 页
勇気を鼓して朝飯を食いに行くことにきめたが、予想のつかぬ将来のために、避難所だけは保有しておかねばならぬと思い、把手を握って、扉を揺すり、
「鍵をなくして、ここから出られないから、戸外をまわって、そちらへ行く」と、うまくいいつくろった。
小屋の横手をまわって裏口から入って行くと、食卓の上には朝食の仕度が出来、膃肭獣は煖炉のそばで毛布の中から顔だけ出し、なにごともなかったようにトホンと天井を見あげていた。狭山もあんな物凄い錯乱をした人間だとは思われぬような落着きかたで、何杯も飯を盛りつけては、ゆっくり喰っていた。
朝食がすむと、私は避難所にひき退ることにし、狭山に、
「向うの部屋で報告書を書くから、うるさくしてはならぬ」といい捨て、※(「勹<夕」、第3水準1-14-76)々に裏口から飛びだすと、小屋の裏側に、庇掛になった薪置場があるのを見つけた。逃避はいつまでつづくかわからず、充分に薪を用意しておく必要があろうと思い、中へ入って薪を抱えとりながら隅のほうを見ると、六足の藁沓が並んでいた。狭山のとおなじもので、三足は棚の上に、三足は地べたに置いてあった。