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りんらくのせいしゅん

淪落の青春

坂口 安吾

「ろまねすく 第一巻第一号」ろまねすく社、1948(昭和23)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,729 字 · 36 页

青空文庫

気の毒な引揚者のお前の方がゼイタクなもの食ってるのだぞ。やせても枯れても、第一、オレは乞食はやらん。キサマ先祖の顔に泥をぬるな」

「引揚げ者の無慙な立場も察して下さい。生きるためには乞食もしなければならないのです。子供が五人もいて、泣きつかれては、乞食でも何でも、米が欲しい芋が欲しい、卑屈なことでも、やる気にならざるを得ないのです」

「オレはやらんじゃないか。オレはこの三日一粒の米も食べておらん。オレの子供は芋ばかり食ってる。この村で、こんな悲惨な生活してるのはオレのところだけだぞ。それでもオレは乞食はやらん」

「兄さん、済みません。オレの米、すこしですが差上げましょうか」

「乞食した貰い米はいらん」

「いや、兄さん、マル公の値段は払っていますよ」

「そうか。そんなら、オレもマル公で買うてやる」

正一郎は幸蔵のたった三升ほどの米を、ていねいにはかって、ちょっきりマル公だけの値段を払った。もちろん、その米は衣子や貞吉には食べさせない。握りめしにして、彼らだけ、オヤツに食うのである。

衣子は婚礼衣裳やら、結婚するとき、タンスに七ツほど衣類をいっぱい持たされたから、それを売って、生活には困らなかった。