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りんらくのせいしゅん

淪落の青春

坂口 安吾

「ろまねすく 第一巻第一号」ろまねすく社、1948(昭和23)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,729 字 · 36 页

青空文庫

貞吉は失われた年齢を考えた。然し、特別に悔いのある年齢でもなかった。サルウィン河の河の色を思い出す。密林の息たえそうな孤独を考える。あの熱帯の濃厚な色調にはいつも自分をつゝんでくれていた懐しい情慾があったような気がする。まだ雪は降らないが、もう年も暮れようとする山国は寒々とうらがなしい。若者たちの狂躁は雑然騒然、体をなしていないが、まったく、熱帯の密林よりも原始的に見えてくるのは、なぜだろう。

サルウィン河を渉る兵隊たちには、九州の床屋もいたし、名古屋の坊主もいた。北海道の百姓もいたし、伊勢の客引きもいた。職工も土方もバクチ打もいたのだ。この村の若者も北京に暮し、広東で鶏を盗み、アンコールワットを見物し、まったく村の生活のスケールをはみだして暮してきたに相違ない。女どもだってそうなんだ。名古屋の軍需会社の庭土の上へ伏せて、自分の隣の女工までは吹きとばされたりハラワタが飛び出ていたりした。同じ会社の社員と熱海へアイビキに行ってきたのもいるし、待合で芸者の代りに課長を接待し、いつも絹布のフトンにねむったわよ、という娘もいた。

山河は昔ながらでも、若者たちは雑然と体をなさゞる何物かであるという外に、何物でもない、というのが当然に思われる。