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ふかがわにょうぼう
深川女房
小栗 風葉
「新小説」1905(明治38)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,597 字 · 57 页
長火鉢の猫板に片肱突いて、美しい額際を抑えながら、片手の火箸で炭を突ッ衝いたり、灰を平したりしていたが、やがてその手も動かずなる。目は瞬きもやんだように、ひたと両の瞳を据えたまま、炭火のだんだん灰になるのを見つめているうちに、顔は火鉢の活気に熱ってか、ポッと赤味を潮して涙も乾く。
「いよいよむずかしいんだとしたら、私……」とまた同じ言を呟いた。帯の間から前の端書を取り出して、もう一度読んで見たが、今度は二つに引き裂いて捨てたのである。
「お上さん、三公はどッかへ出ましたか?」と店から声をかけられて、お光は始めて気がつくと、若衆の為さんが用足しから帰ったので、中仕切の千本格子の間からこちらを覗いている。
「三吉は今二階だが、何か用かね?」
「なに、そんならいいんですが、またどっかへ遊びにでも出たかと思いまして」と中仕切をあけて、
「火種を一つ貰えませんか?」
「火鉢をお貸し」
為さんは店の真鍮火鉢を押し出して、火種を貰うと、手元へ引きつけてまず一服。中仕切の格子戸はあけたまま、さらにお光に談しかけるのであった。
「お上さん、親方はどんなあんばいですね?」
「どうもね、快くないんで困ってしまうわ」