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せいひんのしょ
清貧の書
林 芙美子
「改造」1931(昭和6)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,061 字 · 36 页
「朴さん、あの靴、穴が明いていたでしょうに……」
「よろしいよ。どうせ屋敷で儲けるからねえ」
「助かりましたわ」
「よろしいよ。小松さんは帰りは遅いですか?」
「ええいつも夜になってから……」
「大変ですな。――ところで、石油コンロ買いませんか、金は三度位でよろしいよ」
「ええ……どの位ですウ」
「九拾銭でよろしいよ。元々、便利ですよ」
朴は冷々と気持ちがいいのであろう、玄関の長い廊下に寝そべって、私が石油コンロを鳴らしている手附を見ていた。大分、錆附いてはいたけれど、灰色のエナメルが塗ってあって妙に古風だ。心に火をつけると、ヴウ……と、まるで下降している飛行機の唸りのような音を立てる。
「石油そんなに要りません。一鑵三月もある。私の家もそう」
石油コンロを置いて朴が帰ると私はその灰色の石油コンロを、台所の部屋の窓ぎわに置いて眺めた。家具と云うものは、どうしてこんなに、人間を慰めてくれるのだろう。
夕方井戸端で、うどんを茹でた汁を捨てていると、小里氏の子供が走って来て空を見上げた。
「ねえ、小母さん! 飛行機が飛んでらア」
「どこに?」
「ホラ、音がするだろう……」
私は、空を見上げている子供の頭を撫でていった。