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しぶやけのしそ

渋谷家の始祖

宮本 百合子

「中央公論」1920(大正9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 页

青空文庫

が、然し、坐を立つことは出来なかった。毛虫が塊ったようにしかめられた眉が、研(みが)いたような夫人の瞼がもたげられるのを感じて、殆ど本能的に緩和された瞬間、正隆の前には、もう茶碗を捧げた夫人が現れた。

細い、反(そり)を打った白い指先を奇麗に揃えて、静々と運ばれた茶碗の中には、苔のように柔かく、ほこほこと軽そうな泡が、丸く盛り上って濃緑に満たされている。それを見ると、美くしいと思うより先に、正隆は理由の解らない憤りを誘い出された。

手にも取らず、凝と茶碗の中を見詰めている正隆に、夫人は、

「不加減でございましょうが、どうぞ」

と云いながら微笑んだ。

何が可笑(おか)しいのだ! 正隆は頭を上げようともしなかった。様子が変だと気が付いた夫人は、急に今までの容儀を崩して打解けた調子に返りながら、

「渋谷さん、そんなものは、どうお飲みになったって拘(かま)いませんですよ」

と云いまでした。が、正隆は、依然として動かない。稍々(やや)度を失った夫人が、何か云おうとして言葉を探している拍子に、ひょいと頭をもたげた正隆は、薄明りの陰を受けてこの上もなく陰惨に唇を曲げながら、