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しぶやけのしそ

渋谷家の始祖

宮本 百合子

「中央公論」1920(大正9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 页

青空文庫

が、突然高い頭の小さい少年の像(イメージ)が心に浮び上ると一緒に、正隆は、病気のような心細さを感じ始めた。

何か急に、ポカンと胸のしんが抜けて、がらん洞になった心の洞穴を、寒い、冷い霧雨を含んだ風が、スースー、スースーと風音を立てながら、吹き抜けて行くような淋しさなのである。

その筒抜ける風に煽られながら、正隆は、自分の心も体も、めちゃめちゃになって行くような気分になり始めた。周囲の者達が可哀そうなのではない。勿論。神かけて、あんな奴! けれども、心が悲しいのだ。何かひどく惨めな、可哀そうな気分が突上げて来て、眼に涙さえ浮ませる。寂しい、気の毒な――誰なのだろう?

自分の涙に度を失った鼠のように、正隆はきょろきょろと四辺を見廻した。目の届く限りには、人影さえも動いていなかった。

相変らず、小じんまりと、婦人室のように飾られた部屋の中に、塵(ごみ)のような自分一人が、ほんとの一人ぽっちで、ポツネンと据っているのに気が付くと、正隆は、可哀そうなのは、自分がこうやって、涙までこぼして劬(いた)わってやっているのは、結局彼自身なのだ、というところへ行着いたのである。