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しぶやけのしそ

渋谷家の始祖

宮本 百合子

「中央公論」1920(大正9)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 页

青空文庫

それで追い出そうとする。追い出したいと思いながら、断然と、それを口に出しても云えない者が、どうして、優者らしい態度だといえるだろう。つまり、自分は勝っているのだ。最後に於て勝利を得るのは、この、酷めたと思われている、自分以外の何人でもない筈なのである。

そう思い出して見ると、正隆は、もう何も、こんな田舎の、古びた農学校なぞに未練を持つべき理由を、何処の隅にも発見しなかった。野蛮人達の、果しもつかない小競合(こぜりあい)の中に入って、争うのも惨めな位置などを眼がけるには、もう一寸自分は大きく生れ付いている筈だ。

もっと素晴らしい未来が、自分には保留(レザーブ)されているではないか。

正隆は立ち上って、丘児帯の後に、双手を挾みながら、部屋中を王者のように緩々と歩み廻った。そして、半年近い過去を、夢のように、それも馬鹿馬鹿しい夢を、自ら顧みて忍び笑いをするように、くすくすと肩を竦ませて、舌を出した。

七

こんなにして、突然豚にでもくれるように、心の中で自分の位置を垣内の、四角な顔に擲きつけた正隆は、その晩手荷物も持たないで、K県を立ってしまった。