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たにさんだい

渓三題

木暮 理太郎

「中学生」1924(大正13)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,066 字 · 12 页

青空文庫

双六谷は尻高橋の近くにある「盤の石」から名付けられたものであるといわれている。この石は小さな花崗岩の一片であるが、古くから土地の人に恐れられていた。それに触ると祟りがあるというので、今でも柵の中に囲まれている。二人の鬼がこの石を盤として双六をやっていた、その中に夜が明けたので、慌てて骰子だけは川へ投げ込んだが、盤の石は重いので其場に棄てられたまま未だに残っている、賽が淵は即ちさいころの投げられた所であるという。

双六谷が峡流らしくなるのは、最奥にある金木戸の部落を後にして、笠ヶ岳を西から北へ大廻りに廻るあたりからである。桑崎山の東にあたる辺には、大滝や深淀などという徒渉に困難な場所があって、谷の中を遡ることは相当に骨が折れる。殊に北俣川の合流点は黒部の祖母谷に似て恐ろしく谷が深い。けれども黒部川が林道のお蔭で祖母谷までは楽々と歩けると同様に、右岸に通ずる林道を辿れば、黒部五郎岳から西南に延びた支脈の突端、池尾山の南に位する広河原迄は、金木戸から半日で行かれる。双六谷の真の水の美と岩壁の痛奇とは、これから上流にあって、背が黒い斑の大牛が主であるという黒淵や、青淵、長瀞などの深潭が見られるそうであるが、私の足跡は残念ながら広河原以上に及んでいない。