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とせんば

渡舟場

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,509 字 · 24 页

青空文庫

その瞑想からさめると、もう酒の酔いもほぼさめていましたし、服も乾きかけていました。元彦はなにか皮肉な微笑を浮べ、次で晴れやかな笑顔になりました。そして落着いた足取りで家の方へ戻ってゆきました。

正木の籬の柔かな葉を一枚さぐり取って、彼は笛を吹きました。家の土間にはいると、その葉を捨てて、ちょっと立ち止りました。

そこの、長火鉢のそば、電燈の明るみの中に、女たちが寄り集っていました。母は背をかがめて、火鉢の火に見入っていました。八重子はりりしく顔を引きしめて、宙に眼をやっていました。加代子はハンカチを顔にあてて、泣いていました。重兵衛のところの婆さんが、三人をかわるがわる見比べるようにして、ひそやかに何か話していました。

それが、元彦には、初めて見出した珍しい情景とも感ぜられました。母の様子もいつもと違い、八重子の様子も平素に似つかず、加代子の様子も普通のことでなくそして婆さんが大きな地位を占めていました。

元彦は立ち止ったまま眼を見張りました。そして晴れやかににっこりしました。けれどそれとは別に、なにか胸迫る思いがあって、口は利けませんでした。