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こんとんみぶん
渾沌未分
岡本 かの子
「文芸」1936(昭和11)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 页
「どなた」
貝原が薄暗のなかでちょっとはにかんだような恰好で立ち止った。
「私ですよ。少し遅くなりましたが、街へ踊りに出かけましょう。出ていらっしゃいませんか」
「なぜ、裏梯子から上っていらっしゃらないの」
「薄荷水をピストルで眼の中へ弾き込まれちゃかないませんからなあ」
小初は電球を捻って外出の支度をした。箪笥から着物を出して、荒削りの槙柱に縄で括りつけたロココ式の半姿見へ小初は向った。今は失くした日本橋の旧居で使っていた道具のなかからわずかに残しておいたこの手のこんだ彫刻縁の姿見で化粧をするのは、小初には寂しい。小初はまた貝原に待たれているという意識から薫のことがしとしとと身に沁みて来た。だがそれはほんの肉体的のものである。少くともいまはそう思い直さねばならない。くず折れてはならない。すべては水の中の気持で生きなければならない。向って来るものはみんな喰べて、滋養にして、私は逞ましい魚にならなければならない。小初はぐっと横着な気持になって、化粧の出来上った顔に電球を持ち添えて
「これでは、どう」と窓の葦簾張りから覗いている貝原に見せた。
「結構ですなあ。