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こんとんみぶん
渾沌未分
岡本 かの子
「文芸」1936(昭和11)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 页
。小初の声は勇んだ。
「確かだわ。今晩は夕立ち、明日から四五日お天気は大丈夫よ」
「まあ、そんなところですなあ。遠泳会はうまく行くね」
掌を差し出して風の脈に触れてみてから貝原は相槌を打った。
肩や両脇を太紐で荒くかがって風の抜けるようにしてある陣羽織式の青海流の水着を脱ぐと下から黒の水泳シャツの張り付いた小初の雄勁な身体が剥き出された。こういう職務に立つときの彼女の姿態に針一突きの間違いもなく手間の極致を尽して彫り出した象牙細工のような非人情的な完成が見られた。人間の死体のみが持つ虚静の美をこの娘は生ける肉体に備えていた。小初は、櫓板の端にすらりと両股を踏み立て、両手を前方肩の高さに伸し、胸を張って呼吸を計った。やや左手の眼の前に落ちかかる日輪は爛れたような日中のごみを風に吹き払われ、ただ肉桃色の盆のように空虚に丸い。
ざわざわ鳴り続け出した蘆洲の、ところどころ幾筋も風筋に当る部分は吹き倒れて泡をたくさん浮かした上げ潮が凪ぎあとの蘆洲の根方にだぶつくのが覗ける。
青海流の作法からいうと翡翠の飛込み方は、用意の号令で櫓の端へ立ち上って姿勢を調え、両腕を前方へさし延べるときが挙動の一である。