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こすいとかれら

湖水と彼等

豊島 与志雄

「新思潮」1914(大正3)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,351 字 · 25 页

青空文庫

女は空を恍惚と見上げている――

彼女は急いで家の中に入った。呼吸が喘いでいる。見てならぬものを見たという悔いよりも、神聖なるものを涜したというような恐れが胸に湧いた。お社の御龕をそっと覗いたような心地がした。其処に深い処から何かがちらと光った。じっとしていられないような気がした。

彼女は囲炉裡に火を焚いた。それから火鉢に湯を沸した。どうかしなくてはならないとわけもなく思った。

渚に舟の音がした時彼女は急いで其処へ立ち出でた。

「遅くなってすみません。」と男が云った。

「お帰りなさい。」と何気なく彼女は云った。

二人を家の中へ導いて後、彼女は舟から一切のものを運んだ。そして舟を其処に繋いだ。

彼女は暫く外に立っていた。何か大きいものが彼女の上に被さった。そしてわけもなく騒ぐ心が強く二人の方へ引き寄せられた。で何をともなく神を念じながら急いで家へ入った。

二人は囲炉裡の側に腰を掛けていた。それに茶をくんで出し乍ら彼女はこう云った。「お腹がおすきでしょうねえ。」

「いいえ。」と女が答えた。「舟の中で沢山種々なものを食きましたから。」

彼女も其処へ腰を下した。