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こすいとかれら
湖水と彼等
豊島 与志雄
「新思潮」1914(大正3)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,351 字 · 25 页
」
「いいえ。」と女は頭を振った。「何にも心配なぞ致しませんけれど……。」そしてずっと彼女の手を握って云った。「私は信じています。」
信ずるという意味が彼女の心にはっきりと映った。で女の手を両方の掌にはさんで、いたわるような心をこめて緊と握り返した。
「ああ私の胸に……。」と云って男はじっと燈火を見つめた。静かな夜のうちに燈火は赤い光りを震えつつ咽んでいる。「私の胸に永遠の囁きとでも云ったようなものが響いて来ます。彼方の世界から来るかすかな戦慄が、青空の深い懐と大洋の遠い水平線とが交っているような震えが……。そして私の胸は一杯に満ち充ちて裂けそうになります、祈りで。何を祈るのでもありません。また何に向って祈るのでも……もう自分の心に祈るのでもありません。その時私には、二つの心の生きた愛ばかりがはっきりと見えています。そして涙のうちに永遠の生と死とが一つになって、私というものを遠い遠い処へ運んでゆきます。一瞬間のうちに限りない歳月を押しつめたようで、私はその重荷の下にふらふらと昏倒しそうになります。」
彼はじっと仄暗い片隅を見つめたまま、胸を震わせて逼った呼吸を刻んでいる。