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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页
それを聞きますと、私もまた、ある事柄に思い当りました。そして、思わず口を挟まないではいられませんでした。
「その十一番さんというのは、もしや洋服を着た二人連で、大きなトランクを持っている人ではないかい。そしてゆうべおそくここを立った」
「エエ、そうですの。大きなトランクを一つずつ持っていらっしゃいましたわ」
そこで、暫くの間、十一番の客について、あわただしい会話が取り交されました。番頭のいう所によりますと、彼らは何の前ぶれもなしに、突然出立の用意をして下りて来て、帳場で宿泊料の支払いを済せると、慌てて、自動車も呼ばずに出て行ったというのです。尤も湖畔の村には、乗合自動車の発着所があって、特別の料金さえ出せば、時間に構わず出させることが出来るのですから、彼等はその発着所まで歩いて行ったのかも知れませんが、それにしても出立の際の慌て方が、決して尋常ではなかったというのです。私の見た彼等の妙なそぶりといい、今の番頭の言葉といい、そして、長吉の行方不明、浴場の血痕、のみならず、鏡の影と彼等の出立との不思議な時間の一致。どうやらその間に聯絡がありそうな気がするではありませんか。