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こはんていじけん

湖畔亭事件

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页

青空文庫

これはあとになって分ったことですが、係の検事の意見などもあって、念のためというので、その血痕を拭き取った上、地方の医科大学に送って検査して貰った結果、この刑事の鑑定は少しも誤っていないことが分りました。それは外の動物などのものではなく、正しく人間の血液に相違ないことが判明したのです。

引続き刑事が推定した所によりますと、血痕の分量から推して、被害者は恐らく死んでいること、犯人はその死体を浴場のタタキで処理したに相違ないことなど、すべて素人の私達の想像した所と大差はないのでありました。

もしや兇器その他の遺失物がないか、と浴場の周囲、嫌疑者である紳士の泊っていた十一番の部屋なども落ちなく調べられましたが、何一つ手がかりになる様な品物は残っていませんでした。

推定被害者長吉の身許については、丁度抱主中村家の主婦が湖畔亭へかけつけていましたので、彼女から詳しく知ることが出来ました。その時彼女は、恐しく多弁に色々な事柄を述べ立てました。けれど、要するに、私共が考えてもこれはと思う様な疑わしい事実は何もないのでした。長吉は一年ばかり以前同じ地方のNという町から中村家に住換えて来たもので、以前のことは兎も角、中村家へ来てからの彼女には何の変った所もなく、浮いた稼業の女にしては、少し陰気過ぎる気性であったのが、特徴と