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こはんていじけん

湖畔亭事件

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页

青空文庫

殺人の行われた時間をいわないで、ただ何か物音がしなかったかと聞いている。それでは答えの仕様もない訳だ。もし時間さえハッキリ示し得たならば、この男は、もっと別な答えをすることが出来るのではないだろうか」

そこで、私は思い切って、三造にだけ時間の秘密を打ちあけて見ることにしました。

「人殺しがあったのは、一昨日の夜の十時半頃ではないかと思うのだよ」私は声を低めていいました。「というのはね、丁度その頃、僕は湯殿の方で変な叫声の様なものを聞いたのだよ。君は気がつかなかったかい」

「ヘエ、十時半頃」すると三造は何か思い当った様に、いくらか、表情をハッキリさせて、「十時半といえば、ああそうかも知れない。旦那、丁度その時分、私は湯殿にいなかったでございますよ。台所の方で夜食を頂いておりましたですよ」

聞けば、彼は仕事の性質上、就寝時間が遅くなるので、従って食事も他の雇人達よりは、ずっとおくれて、泊り客の入浴が一順すんだ頃を見はからって、とることになっているのだそうです。

「しかし、食事といったって、大した時間でもあるまいが、その僅の間に、あれだけの兇行を演じることが出来るだろうかね。