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こはんていじけん
湖畔亭事件
江戸川 乱歩
「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页
何か長吉から聞いたことはないの」
「別にこれといって、まああたりまえのお客さまですわね。でも大変なお金持らしいということでした。きっと財布でも見たのでしょう。お金がザクザクあるって、長吉さんびっくりしてましたわ」
「ホウ、そんな金持だったのか。それにしては、大して贅沢な遊びもしていなかった様だが」
「そうですわね。いつも長吉さん一人切りで、それに、三味線も弾かせないで、陰気らしく、お話ばかりしていたのですって。毎日部屋にとじ籠っていて、散歩一つしない変なお客だって、番頭さんがいってましたわ」
トランクの紳士については、それ以上別段の話もありませんでした。そこで私は今度は、長吉自身の身の上に、話頭を転じて行きました。
「どうせ、長吉には、いい人というのがあったのだろうね」
「エエ、それですわ」〆治は目で笑って「長吉さんという人は、至って黙り屋さんで、それにこちらへ来てから日が浅いので、あたしにしたって、あの人の心の中なんて、まるで分りゃしません。どっかこう、うちとけない所があるんですの。損なたちね。ですから深いことは分らないけれど、あたしの見た所じゃ、そんないい人なんてなかった様ですわ。