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こはんていじけん

湖畔亭事件

江戸川 乱歩

「サンデー毎日」大阪毎日新聞社、1926(大正15)年1月3日~5月2日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,335 字 · 137 页

青空文庫

それが、石炭の強い火気に照し出されて、赤黒く光っているのが、これもまた異様な感じのものでありました。

「いい湯だね」

「エヘヘヘヘヘヘ」

三造は暗い所で、愚ものらしく笑いました。

私は変な気持になって、穴のふたをとじ、そこそこに浴槽を出ると、洗い場に立って体を拭き初めました。ふと気づくと、目の前の窓の擦りガラスが少しばかり開いて、先夜曲者の逃げ込んだという深い森の一端が見え、その真暗な所に、ただ一点白く光ったものがチラチラと動いていました。

何かの見違いではないかと、暫く拭く手を休めて、じっと見ている内に、今度は少し位置を換て、又チラチラと光るのです。その様子がどうやら、何者かが森の中を、さまよっている様に思われるのでした。

そうした際のことですから、私は直に先夜の曲者を聯想しました。もしあの男の正体を明かにすることが出来たなら、すべての疑問は氷解する訳です。私は湧き上る好奇心を押えかねて、大急ぎで着物を着ると、迂回して庭から森の方へと進みました。途中河野のところへ寄って見ましたけれどどこへ行ったのか、彼の部屋はからっぽでした。

星もない暗夜です。その中を、幽に明滅する光るものをたよりに、探り足に進むのです。