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こはん
湖畔
久生 十蘭
「文藝」1937(昭和12)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,180 字 · 47 页
と腕を組んで思案していたが、
「よろしゅうございます。及ばぬまでも奮発してみましょう。事実とすれば、驚き入ったことで、あのような御眷顧を受けられた夫人としては、実に忘恩な成され方ですから、その点に力を注いでリターニングすれば」
「左様さ、陶の方は、どう罵っても差支えない。材料が足りなければ口合をして事実を捏造しても構わん。しかしそれだけで無罪になりそうか」
「イヤー、それだけでは難かしゅうございます。なにか違法性の阻却された事実でもなくては」
「結構だな、そういう都合にしても貰おうか」
「と、おっしゃられても、そう手軽にはいきません。それはともかく景況を伺って置きましょう、どういう具合にして殺害なさッたのですか」
「首を締めて殺した」
「蘇生なさるようなことはございますまいか。自訴なさッた後で蘇返ったりしたら、飛んだ物笑いになりますから」
「衿を掴んで締めあげ締めあげしていくうちに、耳と眼から血が流れてきた。万が一にも蘇返るはずはない」
「何故、刀かピストルを用いられンかッたのですか」
「手許に無かったからだ」
「逆上なすッて、そんなものを持ち出す暇がお有りにならなかったのですネ、それはよろしい」