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げんおじ

源おじ

国木田 独歩

「文芸倶楽部」1897(明治30)年8月10日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,455 字 · 23 页

青空文庫

「さなり」翁は見向きもせで答えぬ。

「乞食の子を家に入れしは何ゆえぞ解しがたしと怪しむものすくなからず、独りはあまりに淋しければにや」

「さなり」

「紀州ならずとも、ともに住むほどの子島にも浦にも求めんにはかならずあるべきに」

「げにしかり」と老婦口を入れて源叔父の顔を見上げぬ。源叔父はもの案じ顔にてしばし答えず。西の山懐より真直に立ちのぼる煙の末の夕日に輝きて真青なるをみつめしようなり。

「紀州は親も兄弟も家もなき童なり、我は妻も子もなき翁なり。我彼の父とならば、彼我の子となりなん、ともに幸いならずや」独語のようにいうを人々心のうちにて驚きぬ、この翁がかく滑らかに語りいでしを今まで聞きしことなければ。

「げに月日経つことの早さよ、源叔父。ゆり殿が赤児抱きて磯辺に立てるを視しは、われには昨日のようなる心地す」老婦は嘆息つきて、

「幸助殿今無事ならば何歳ぞ」と問う。

「紀州よりは二ツ三ツ上なるべし」さりげなく答えぬ。

「紀州の歳ほど推しがたきはあらず、垢にて歳も埋れはてしと覚ゆ、十にやはた十八にや」

人々の笑う声しばし止まざりき。

「われもよくは知らず、十六七とかいえり。